1997年に「臓器移植に関する法律」が施行されてまもなく四半世紀になります。しかし本邦の臓器提供数は諸外国に比べ非常に少ない状態が続いており、臓器提供があれば助かったはずの命が、日々失われています。各臓器とも移植後の成績は世界でもトップクラスであるにも関わらず、我が国の臓器移植医療に対する理解はいまだ十分とは言えません。
臓器提供には脳死下に提供する方法と、心停止後に提供する方法の2種類があります。「脳死下」という言葉を正確に理解するのは容易ではありませんが、「すべての脳の機能が完全に停止し、他臓器の機能はまだ保たれているが、心停止に至ることが避けられない比較的短い期間のこと。」と考えていただくと良いでしょう。脳死の場合、心臓、肺、肝臓、小腸、腎臓、膵臓、眼球の提供が可能です。心停止後の場合、腎臓、膵臓、眼球の提供が可能です。心臓、肺、肝臓、小腸は、心停止後ではその機能が維持できないため、脳死下のみで提供が可能なのです。脳死、心停止のどちらの状態で提供するかは病状にもよりますが、基本的に患者さん本人や、そのご家族の希望に委ねられています。
本県で行われている臓器移植は腎臓移植(生体腎移植、献腎移植)のみであり、献腎移植については当院でのみ行っています。臓器移植ネットワークに登録して献腎移植を待機している腎不全患者さんは全国で約13,163人、うち宮崎県に59人おられます(いずれも2020年12月末時点)。献腎移植を待機しているほとんどの人が透析を受けています。日本の透析技術は大変優れているため、透析をしながら快活に生活している方もいらっしゃいます。しかし透析に伴う体調不良や厳格な食事制限は多くの患者さんにとって大変つらいものです。通院の負担もありますし、気軽に旅行もできません。当然仕事も制限されます。合併症のリスクはどうしても高くなりますので、生命予後(寿命)も短くなってしまいます。移植を受けられればその問題の多くは改善し、仕事も含めて健常人とほぼ変わらぬ生活を送ることができるようになります。そして心移植や肺移植、肝移植を待機している患者さんは、今まさに生命の危機に瀕している方々です。移植を受けられなければ、命の期限が目前に迫っているのです。移植という最後の希望にすがる患者さんや、そのご家族の思いは想像に難くありません。
病気や事故で、不幸にしてその人生を終えるとき、もしかしたらその方の善意がこれらの患者さんを救うことができるかもしれません。そのためには、提供しても良い、という意思表示が必要になります。本人の意思表示は免許証や保険証、マイナンバーカードへ記入することで行うことができます。本人の意志が不明な場合は、ご家族がその意志の代弁者となることが可能です。もしこの文章を目にされたのであれば、ぜひ一度臓器提供について考えてみてください。そして、ご家族とも話をしてみてください。さらに、免許証や保険証、マイナンバーカードを取り出して、記入してみてください。多くの方がこれを行うことで、救われる人がきっと生まれるはずです。
最後に、臓器提供は決して強制されるものではありません。また、治療のために移植を受けることも同様です。「臓器を提供したくない」、「人の臓器をもらってまで長生きしようとは思わない」というのも、当然尊重されるべき権利です。その意志がはっきりとしていれば、もしものときに残された家族が悩むことはなくなるでしょう。私達はいつでも、「臓器を提供しても良い」という意志と「臓器を受け取りたい」という希望の架け橋でありたいと思っています。
宮崎県立宮崎病院 外科 寺坂壮史